扶桑型二番艦 山城(艦隊これくしょん 二次創作)

 自分でもどうして姉様にあんな態度をとったのか分からなかった。心の中に何か黒いものが溜まっていくような感覚を覚える。

「扶桑、山城、こんなところにいたのか。出撃だ」
 少し高めの穏やかで優しい声と共に、提督が顔を出す。
「わかりました、すぐ行きます」
 短く答えてドッグを出ようと姉様の手を引いた、その時、私は見てしまった。嬉しそうな顔をして提督を見る姉様を。あんな顔、私には見せたことないのに。
 提督が姉様の頭に手を置く。優しく、優しく髪を梳いた。
「いつも悪いな、お前たちに頼ってばかりで」
 彼は、『お前たち』と言ったが、私の方は見なかった。ずっと姉様だけを見つめている。姉様も提督だけを見つめている。私だけが、世界に取り残されているような感覚に陥る。

 提督に髪を撫でられている姉様は、本当に嬉しそうで、私まで顔が綻んでしまいそうになる。私だけの姉様だったはずなのに。悔しくて、悔しくて、
「すみません提督。私、今日は気分が優れないので、出撃はできません」考える前に口から先に言葉が出ていた。
 提督はこちらを見て、姉様を見てから、
「どこか悪いようには見えないが……。外からでは分からない部分か?大丈夫か?」優しい声で言った。
 姉様はこの優しさに騙されているのだ。私だけは騙されたりはしない。こんな男を信頼していた自分に嫌気がさす。私には姉様さえいればいい。
「ドッグで休めばよくなります。私が出撃できないのですから、姉様も出撃しませんよね?」
 睨みつけるように姉様を見た。私の視線に気付いた姉様は、困ったような顔をして笑って、
「私は出撃するわ。ごめんね、山城」
 そう言い残して、提督と共にドッグから出て行った。私は、何を言われたのか分からなくて、茫然と立ち尽くしてしまった。
 私を置いて姉様が一人で出撃するなんて思わなかった。いつだって私と一緒にいることを優先してくれると思っていた。だって、あの日も一緒にいたのだから。

 姉様が戦果をあげて戻ってくる。一瞬目が合って、何か言いたげに口を開いたことに気付いて、目を逸らしてしまった。悲しそうな顔をした姉様の顔が、脳裏にちらつく。姉様が悪いのよ、私を置いて出撃するから。そう自分に言い聞かせる。
 あれから、私とお姉様が一緒に出撃することはなくなり、私が姉様のドッグへ行くことも、その逆もなくなったまま、一月が過ぎてしまっていた。自分は悪くない、と頑なに信じていた私は、謝るタイミングを逃し、ますます気まずい雰囲気を漂わせていた。