扶桑型二番艦 山城(艦隊これくしょん 二次創作)

 扶桑姉様の船体が静かに海の底へ沈んでいく。
 どれだけ腕を伸ばしても、姉様の船体には届かない。身を引き裂くような悲しみと絶望の中、瞳を閉じてゆっくりと沈んでいく姉様を、ただただ見つめている。視界が、揺らぐ。

 自分の半身を失ったような喪失感の中、遠くから提督の声が聞こえる。目の前の艦隊に突入を続けろ、と。直後、横腹に魚雷を受け、動けなくなった私も姉様の後を追って、ゆっくりと海の底へ――。

「……扶桑姉様!」
 目が覚めた私は、自分が入渠していたことに気付く。また、あのスリガオ海峡の夢を見ていたのね。何度、この夢で目が覚めたら気が済むのだろう。

 海の底に沈んだはずの私たち姉妹は、目が覚めるとドッグにいた。
 何が起こったのか分からなくて、あれは夢だったのかとか、どうやってあそこから助かったのかとか、色々と考えたけれど、やっぱり私には、暗く冷たい海の底へ沈んだ記憶が、確かにあった。姉様にも聞いてみたけれど、彼女もやはり、沈んだ記憶があると、言っていた。

 目が覚めた私たちに、「お前たちはこれから、提督と共に『敵』を倒すのだ」と、誰かが言った。『敵』とは何なのか、聞いてみたけれど答えてはもらえないようだった。
 それからの私は、姉様と一緒に出撃をさせてもらえるようになった。いつもドッグで誰かが出撃していくのをただ見送るだけのあの頃とは、何もかもが変わっていた。

 今度の提督はとても優しくて、私が出撃する時には必ず姉様も一緒に出撃させてくれる。いつも二人一緒。命令するだけの提督なんて好きじゃないと思っていたけれど、彼のことは信頼するようになった。

「姉様、見て!ほら、近代化改装をしてもらって、私も航空戦艦の仲間入りよ。これでもう欠陥戦艦だなんて言わせないわ」
 近代化改装の直後、姉様のドッグに立ち寄り、くるりとまわってみせた。姉様はにこにこと笑顔のままで、
「よかったわね、山城。これからもっと提督の役に立てるよう頑張りましょう」と言った。
 私はその言葉が、なぜだか気に入らなくて、ふん、と鼻を鳴らして姉様のドッグを立ち去った。いつもなら、そのまま姉様と金剛姉妹たちとお茶をして、昼下がりの時間を過ごすのに、その日は、そのまま自分のドッグへ戻った。去り際に、ちらりと姉様を見ると、不思議そうな顔をしていた。

「山城、昨日は何かあったの?」
 翌朝、姉様が私のドッグまで来て、心配そうに小首を傾げた。
「大丈夫よ、なんでもないわ」