扶桑型二番艦 山城(艦隊これくしょん 二次創作)


「山城、ちょっといいか?」
 ある日、提督が私のドッグに現れた。
「話すことなんて何もありません」
 できる限り冷たい声で、そっけない態度で、そう答える。困り果てた様子の提督は、頭を掻いて、
「扶桑の件はすまなかった」とだけ言った。
 私には、『姉様の件』が何を指すのか分からなくて、
「意味が分かりません」と掠れた声で答えるのがやっとだった。
 重い沈黙の後、
「そうか。とりあえず出撃をお願いできるか?」提督は普段より幾分低い声で、そう言った。

 出撃の準備をしていると、姉様がやってきた。久しぶりに見る姉様は相変わらず美しくて、心が躍っている自分に気が付いた。
「扶桑姉様!」
 気まずいなどと思っていた自分はどこへ行ったのやら、主人に尻尾を振る犬のように、姉様にまとわりついた。
「山城、今日は久しぶりに一緒に出撃できるのね」
 本当に心から嬉しそうに姉様が微笑んだ。その顔を見た私は、嬉しくなって、今までそっけない態度をとっていたことを謝った。
「謝らなくていいのよ、私も悪かったわ」
 そして、二人で手を繋ぎあって、出撃した。やっぱり姉様は私のものだ、という実感がこみ上げてきて、口元が緩むのを抑えきれなかった。金剛が変な顔をしてこちらを見ている。でも、それでも良かった。私はとても、幸せだった。

「姉様……っ……!」
 隣にいたはずの姉様が、なぜか私の目の前にいる。私に向かってきていたはずの魚雷が、なぜか姉様に直撃している。
 私の叫び声は砲撃の音に掻き消えていく。沈ませまいと、姉様の腕を掴んでいる私の腕に段々と重みが増していく。このままでは、身動きが取れない私も的となり、一緒に沈んでしまう。
「姉様!姉様……目を開けて……!」
 目を閉じ、ゆっくりと沈みゆく姉様に必死に声をかけた。あの日のことがフラッシュバックされる。でも、今度はしっかりと姉様の腕を掴んでいる。このまま沈ませはしない。
「やま……しろ?」
 あちこちが被弾し、ぼろぼろになった姉様が薄らと目を開いた。姉様の意識が戻ったことに安堵し、声をかけようとした瞬間、私の船体に魚雷が直撃した。
「山城!手を……手を離して!あなたまで沈んでしまう」
 姉様の悲痛な叫びが聞こえる。でも、私は意地でも手を離すまいと、腕に力を込めた。遠くで金剛の叫び声が聞こえる。
「これで、姉様は私のものね」